かけはし
かけはし63号
平和の詩『これから』から考えよう
6 月23日に沖縄県糸満市の平和祈念公園で『沖縄全戦没者追悼式』が戦没者の追悼と恒久平和を祈念して開催されます。なぜ、6月23日なのでしょうか。アジア太平洋戦争は8月 15日が終戦記念日になっており、呼び名は様々ですが日本だけではなく韓国や中国も8月15日です。沖縄では地上戦が行われ、日本とアメリカ合わせて約20万人・一般住民9万4千人以上が犠牲になりました。当時日本軍の牛島満司令官と長勇参謀長が自決し組織的戦闘が終結したのが6月23日とされていることから、この日に開催されています。
6月23日は、広島に原爆が投下された8月6日・長崎に原爆が投下された8月9日と同様に戦争という過去の過ちを繰り返してはならないことを確認する大切な日だと考えます。8月は夏休みで子どもが登校しないので、6月23日や12月8日(パールハーバー)は平和について子どもたちと一緒に考えることができる大切な日だと考えます。
6月23日の追悼式では、毎年『平和の詩』の朗読があります。2024年は高校3年生の仲間友佑(ゆうすけ)さんが『これから』と題した『平和の詩』を朗読してくださいました。朗読の中に「抜けるような青空を 飛行機が横切る 僕にとってあれは 恐れおののくものではない 僕らは雨のように打ちつける 爆弾の怖さも 戦争の『せ』の字も知らない」との詞があります。仲間さんは親族から戦争体験を直接聞く機会はなく、幼いころに受けた平和学習はどこか人ごとだったそうです。しかし、成長し世界に関心をもつにつれ「戦争は過去のものではない」と実感しあらゆる世代に伝わって欲しいとの思いで『これから』をつづられました。
平和学習は大切だと考えているが具体的にどのように進めればいいのか悩んでおられる方はおられるのではないでしょうか。NIE実践校に指定されている小学校の平和学習担当者 111名が回答したアンケートによると「原爆や戦火の記憶に関する平和学習を展開する上で、困難に感じることはあるか」との質問に21名が「ある」、56名が「どちらかと言えばある」と回答しています。実に69%の方が困難を感じておられます。理由として「授業者の知識が不足している」「戦争体験者の話を聞く機会の確保が難しい」との回答が目立ったそうです。
沖縄県名護市で小学校2年生を担当された27歳の先生の実践の一部を紹介します。6月23日の事前学習では、元白梅学徒隊の中山きくさんの戦争体験を基にした絵本『きくさんの沖縄戦』の読み聞かせをされました。怖そうな表情を浮かべたりした子どもたちは「戦争をしたくない子どもたちまで巻き込まれてかわいそう。」などの感想をつづったそうです。授業者は「自分の知識が乏しいと不安もあったが、授業を終えて体験していない者同士が平和のバトンをつないでいくことの大切さを改めて感じた。」と語っておられます。
80年が経ち、核の恐怖や戦争の悲惨さを訴える体験者の貴重な声が聞けなくなっている現実があるなかで、広島平和記念資料館はホームページで被爆体験講話を視聴できるようにしています。学校での平和学習は子どもたちが自分事として捉えるための貴重な機会です。戦争体験のない私たち世代の教職員が、記録や資料から子どもと共に平和について考え、伝えることを大切にすることは、仲間さんの思いとも重なると考えます。
人権・地域教育課
仲間友佑さんがつむいだ平和の詩「これから」
短い命を知ってか知らずか 蝉(せみ)が懸命に鳴いている
冬を知らない叫びの中で 僕はまた天を仰いだ
あの日から七十九年の月日が 流れたという 今年十八になった僕の 祖父母も戦後生まれだ
それだけの時が 流れたというのに
あの日 短い命をしるはずもなく 少年少女たちは 誰かが始めた争いで
大きな未来とともに散って逝った
大切な人は突然 誰かが始めた争いで 夏の初めにいなくなった
泣く我が子を殺すしかなかった 一家で死ぬしかなかった 誰かが始めた争いで
常緑の島は色を失(な)くした 誰のための誰の戦争なのだろう
会いたい、帰りたい
話したい、笑いたい
そういくら繰り返そうと 誰かが始めた争いがそのすべてを奪い去る
心に落ちた 暗い暗い闇はあの戦争の副作用だ
微(かす)かな光さえも届かぬような 絶望すらもないような
怒りも嘆きも失くしてしまいそうな 深い深い奥底で
懸命に生きてくれた人々が 今日を創った 今日を繋(つな)ぎ留めた
両親の命も 僕の命も 友の命も 大切な君の命も すべて
心に落ちた あの戦争の副作用は 人々の口を固く閉ざした
まるで 戦争が悪いことだと 言ってはいけないのだと 口止めするように
思い出したくもないほどの あの惨劇がそうさせた
僕は再び天を仰いだ 抜けるような青空を 飛行機が横切る
僕にとってあれは 恐れおののくものではない 僕らは雨のように打ちつける
爆弾の怖さも 戦争の『せ』の字も知らない
けれど、常緑の平和を知っている
あの日も 海は青く 同じように太陽が照りつけていた
そういう普通の中にただ 平和が欠けていることの怖さを 僕たちは知っている
人は過ちを繰り返すから 時に無情にも流れていくから
今日まで人々は 恒久の平和を祈り続けた 小さな島で起きた あまりに大きすぎる悲しみを 手をつなぐように 受け継いできた
それでも世界はまだ繰り返してる
七十九年の祈りでさえも まだ足りないというのなら
もっともっとこれからも 僕らが祈りを繋ぎ続けよう
限りない平和のために 紡ぐ平和が いつか世界のためになる そう信じて
今年もこの六月二十三日を 平和のために生きている その素晴らしさを噛(か)みしめながら
PDFで印刷する~平和の詩『これから』考えよう~ (PDFファイル: 190.0KB)
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市内の教職員・保育士の方に向けて作成しております。
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この記事に関するお問い合わせ先
人権・地域教育課
奈良県橿原市小房町11-5(かしはら万葉ホール)
電話:0744-29-6991
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更新日:2025年06月16日